2012年10月30日火曜日

03 とりあえず、休息












「ごめんねェ。アイツが失礼なことばっか言って…」


「いや…本当は募集してるの知らなかったみたいですし、やっぱり戸惑うと思います。」


「萩君はイイコねェ~!別に気にしなくてもいいのよ!」




にこにこと笑っているレイラだが、何とかしてジュノンの言っていた話題から離れたいようで

何かないかと思想を巡らせる。

だが、萩にとっては引っかかるらしく、レイラに尋ねた。








「その…ジュノンさんが言ってた前の家政婦さんって…」


「えっ!? あ、あぁ、うん。少し前に募集を見てくれた人がいたんだけど…その、一ヶ月経たずにやめちゃったのよ。」


「えっ」


「何ていうか…その……言いづらいんだけど、ジュノンがその人に色々と嫌がらせをしてたみたいなのね。」



嫌がらせ。

その単語に萩はかなりの不安を覚えた。あれだけジュノンに言われていたのだ。

これからどんなことをされてしまうのか…。

その不安は顔に出ていたようでレイラは慌てて言葉を続けた。








 「だ、大丈夫!ちゃんと私やエドラー、それにニナも反対じゃないんだもの!

 ジュノンに何かされたらすぐに言ってちょうだいね!」


 「は、はぁ…。」


 「その、まぁ、色々大変だろうけど、ニナに言えば何とかしてくれるから、ねっ!」



 無理矢理と言っていいほど強引にレイラが萩を納得させる。

 ジュノン以外の人は頼れると思えば少しは気が楽になる…のだろうか。

 色々と疑問と不安を抱えながらもレイラに自室へ案内され、別れた。







 ―――








 思っていたよりも殺風景な部屋だった。

 目に付くのがソファー、壁掛けテレビ、オーディオ、ベッド、キーボードくらいか。



 「なんでキーボードがあるんだ…?」



 と、疑問符を浮かべながらも一息つくためにソファーへと腰掛けた。








 (お、ふかふかで結構座り心地いいなぁ…。テレビもこれHDだし、いい環境だな。)



 ふぅ、とずっと緊張したままだった身体から力を抜いてリラックスができた。

 萩はただぼんやりとテレビを眺めながらこれからのことを考える。



 (BPって結構ガラの悪い人が多い気がしてたけど、ここの人たちはそうでもなくてよかった。

    でもジュノンは何だかやな感じだったなぁ…。どうにも馴染めなさそう。

  明日から家事担当かぁ。ここのキッチンとかどこにあるんだろ?どうにも見つけれなかったし。)







 (覚えることが多そうだなぁ。でもこんないい環境を用意してくれるところってそうそうないし、

 精一杯頑張って仕事して、給料分働かないとね。)



 うんうん、と無意識にうなづく萩。

 それからそれから、と次々にいろんなことを考えていると後ろから声をかけられた。



「そこまで沢山のことを押し付けるつもりはない。」


「えっそうなんですか?」


「料理、洗濯、精々エントランスや廊下の清掃だな」


「それってほぼ全部じゃないですか?」


「…………。」








「…………。」


「………えっ?」









「…あの、ニナさん、いつ入ってきたんですか?」


「今。」


「 ノックしてください、ビックリしたんですよ本当に」


「した。お前が気づいていなかったようだったからな。」


「そうですか…すいません。」



 と、そこで会話が途切れてしまった。

 萩は何とか繋げなければと話題を探してみるがなかなか見つからない。

雇い主であるニナに何か気に障るようなことなどを言ってしまわないか不安になった。

言葉に詰まっているとニナが不意に口を開いた。








「いいか。とにかく仕事をしていればあいつは危害は加えない。」


「ジュノン、さんのことですか?」


 「あぁ。まあその内あいつの葛藤の事情はわかるから気にするな。」


 「へ?」


「今言うことはそれだけだ。明日から頑張ってくれ。」



と、言いたいことを言うだけ言ってニナは部屋から出ていってしまった。



(……よくわからない人だ。)



ぽつん、と部屋に残された萩はソファーに座り直してテレビの続きを見始めた。










 ―――








「なぁ~エドラーってば!

 どうせあいつもこの前のやつと同じだって!そう思うだろ?な?」


 「…うるさい、今仕事中。」



一方、エドラーの部屋ではジュノンがずっとしゃべりっぱなしであった。

エドラーは家で済ませる仕事に熱心に取り組んでおり、うんざりした声で相槌を打っている。

早く自室に戻れよと言いたかったが、どうにも後からレイラや萩に当たりに行くかもしれないと考えがあって切り出せずにいた。



「だぁかぁらぁ…もう一回どうにか追い出しちまえばニナも募集やめるって流石に。」


「そこまで言うならニナに直接言えばいいんじゃないのか。」


「いや…それは……うん、やめろって言われそうだし…」


「俺もそう思うよ」



エドラーはパソコンに向けている顔を動かさずにそのまま言葉を続けた。








「ニナは全部分かっていると思うよ。お前のしたことも全部。」


「……そんなことない。……と、思う。」



我ながらそんなことは有り得ないとは言い切れないことにエドラーは少々戸惑いながらも話を続ける。



「前のようにやりたいなら好きにすればいい。

 ただ、ニナに知られればどうなるかは分からないよ。

 レイラだって本気で怒るよ、きっと。」


「それは…そうだけどさぁ…。

 ……俺はばれない自信があるね、うん。」



強情な奴だ、と溜息を吐きながらエドラーはジュノンに諦めさせるのを止めた。

これ以上言ってもこいつは絶対にやる、と確信が持てた。

そして目の前の仕事に没頭することに決めたのだった。








(…皆知らないからそんなに緩いんだろ。だったら気づいた俺が何とかしないと…)







→続く



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